2010年05月31日(月) とりあえずレプリカだけ上げときます。
【レプリカの夢13】
朝のうちに作り置いて冷蔵庫で冷やしていたデザートをテーブルに運んでくる。 「これ、あまい…」 トロリと甘いカスタードプリンを幸せそうに頬張りながら、ジャンは笑った。 「じゃあもう一個いるか?」 同居するようになってからロイのリクエストで食後のデザートを出す事が多いのだが、ハボック自身はあまり甘い物が得意じゃなかった。嫌いなわけではないが、量をこなせないのだ。だから今夜のようにロイが外で食事を済ませてしまうとちょっと困った事態になる。 「でも、大佐が帰ってきたら食べるだろ? 自分の分が無いと、あの人拗ねるんじゃない?」 「大丈夫だよ。多めに作ったから、食べるの手伝ってくれ」 そう言ってハボックは冷蔵庫からもう一個プリン型を取り出して皿に開け、こげ茶色のカラメルソースをその上に掛ける。 「クリームは?」 「カラメルだけでいい。生クリームのせると卵の味がボケる」 プリンを見つめる濃い空色の眸が子供のようにキラキラと瞬いた。いや、実際ジャンは子供なのだろう。ハボックの容を模(っているから肉体的には大人でも、まだたった4日足らずしか生きていないのだから。 「大佐、何時頃帰ってくんの?」 あっという間に二個目のプリンを平らげたジャンは、名残惜しげにスプーンを舐めながら訊いた。ハボックは二人分の食器をシンクに下げながら答える。 「さあ……俺が上がった時点では、まだデスクに山が三つくらい残ってたからなあ。多分零時過ぎちゃうと思うぜ?」 今日、病み上がりの彼は無理をしないようにと一日中デスクワークだった。昨夜司令部に泊り込みで仕事をしていたにも拘らず一向に書類の山の減らないロイは今夜もまた残業だったから、定時に上がるようにと医者にきつく言い渡されていたハボックは上官を残して一人で先に帰宅するしかなかった。 「そっか…じゃ、風呂入って居間で待ってよ。ハボは?」 「………俺は先に寝るよ。明日も早いし」 明日は訓練もある。いつまでもぐだぐだとプライベートを引き摺っているわけにはいかなかった。食器も片付け終わったし、シャワーは司令部で済ませてきたから後は処方された薬を飲んで自室で眠るだけだ。 「わかった。おやすみ、ハボ」 「おやすみ」 ロイの気に入りのソファーにぱふんと懐き、主の移り香を求めるように鼻を摺り寄せるジャンを残して居間を後にする。薄暗い廊下に、でたらめなメロディを口ずさむレプリカの陽気な歌声が聞こえていた。
夜半、うつらうつらとした不安な眠りを微かな車の音で乱される。 “…帰ってきた?” いつもならロイの帰宅がどんなに深夜であろうと、一旦起きて下まで出迎えにいくのだが。 「……ぅ、ん……」 抗生剤による不自然な睡気はどうしても拭えず、起き出したいという気持ちとは裏腹に腕を上げることすら出来ない。 そうしているうちに階下でバタバタと物音がして、やがてジャンの甘い善がり声が切れ切れに耳に届き始めた。帰ってきたロイに、おそらくその場で強請ったのだろう。二階の寝室に移動する時間すら惜しむのがいかにもジャンらしい。 「 ─── ッ…」 鉛のように重い身体のまま、けれど神経だけが冴えていく。自室のベッドに横たわったまま耳を塞ぐどころか寝返りすら打てず、ハボックはひたすら睡魔がもう一度自分を忘却の淵に沈めてくれるのを待つしかなかった。 |
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