2009年06月24日 (水) 拍手とコメントありがとうございますv レスは夜にしたいと思います。 このところまたプチ塗り絵ブームで、オエキョさんに入り浸ってます。と言っても素敵絵を眺めてうっとりしている時間の方が多いような気がするのですが(笑)。スローペースでちんたら塗ってます〜。Oebitさんの方がサーバは軽いんだけれど、あそこはあんまり交流する雰囲気じゃないので、塗れば塗りっぱなし、って気もします。普通に気に入った塗りにはコメント入れる時もあるんですが、やっぱりちょっと勇気が要ったり(笑)。その点オエキョさんは楽しいなあv
【レプリカの夢12】
『一週間?』 ジャンが目覚めた最初の晩、そう告げられた。 『そうだ、一週間だ。あれは元々ただの人型の無機物を無理矢理有機体にすり替えたものだからな。これまでの実験では長くて五日、短ければ1時間ほどで術が解けてしまった。だからお前が妬くような代物じゃないんだ』 『…それで、解けたらどうなっちまうんです?』 『どうってそれは ─── 元の木偶人形に戻るだけだろう』 『 ─── っ』 実験室に山積みされたおびただしい量の灰色の物体を思い出して、ハボックは身震いした。今現在、息をしてしゃべって食べて自分たちに笑いかけてくる『彼』を、そんな風にただの物扱いはとてもできない。 『大佐…』 泣きそうに顔を歪める部下を見てロイは苦い笑みを刷いた。ハボックの性格からしてこの手の被験体に感情移入してしまう事はわかっていたが、ロイ自身はこれまで必要以上の哀れみを被験体に注ぐことはなかった。こんなもの、人体実験の後味の悪さに比べれば全然可愛いものだ。上層部の命令とは言えイシュヴァールで繰り返した血生臭い実験を思い出して、知らず唇を噛む。 上官の自嘲の笑みに気付いて、ハボックははっとした。『イシュヴァールの英雄』がその胸深く抱え込んでいる傷に触れてしまったのだ。薄い瘡蓋を被っただけのそれは、少しつつくとたちまち血を流し始める未だ癒えない負の遺産だ。 『そんな貌、しないでください。俺の前でまで自分を誤魔化さないで』 『私は英雄なんかじゃない。汚い人殺しだよ』 『構わねえ。俺が惚れてるのは、あんたです』 困ったように微笑むロイの頭を椅子の背凭れ越しに抱き締めて、ハボックはそっとその耳元に誓った。 『俺、何があってもあんたを否定したりしません。『イシュヴァールの英雄』のあんたも、サボリ魔のあんたも、女タラシのあんたも ─── 全部ひっくるめての『ロイ・マスタング』でしょう?』 『 ─── ハボック』 『時間が限られているなら、せめてこの一週間はあいつの好きなように過ごさせましょうよ。特にこなさなきゃいけない実験もないんでしょう?』 『ああ、ジャンの存在自体が実験成果だからな。後は経過観察すればいいだけだ』 『じゃ、問題ないッスね』
気楽に口にした自分の提案に、彼はすぐにひどく後悔する破目になった。だが今更取り消す事も出来ない。素直な想いのままにロイを求めるジャンの奔放さに振り回された挙句、体調を崩して感情を抑えきれなくなった状態で上官に泣き付いてしまった。 『大佐、たいさッ……俺、すげえ寂しかった……っ』 “………ッ” 咽び泣きながらロイを求めてしまった事を思い出して、今更ながらに赤面する。 「ハボ?」 「あ、ああ……何でもない」 「まだ具合悪い? 熱、下がったよね?」 温くなったタオルを外したレプリカは、こつんと額を合わせて心配そうに覗き込んできた。 「うん、もう平気。このまま寝てれば治ると思う」 「そ?」 にっこりと笑ってジャンは部屋を出て行った。 別に彼が嫌いなわけではない。むしろあの子供のような無邪気さと素直さが好きだった。ロイへの真っ直ぐな想いも好感が持てる。ただ、そうであればあるほど、自分の不器用さを思い知らされるのがつらかった。 「お粥作ったんだけど、食えそう?」 暫らくして小さなトレーを持ってきたジャンは、ちょっと不安そうにサイドテーブルにそれを置いた。 「お前が作ったの?」 「うん。ハボのみたいに美味いかわかんないけど。」 湯気の立つ器にはベージュのどろりとしたポリッジが盛られ、それにミルクが添えられていた。おそらくはハボックが作ったのを思い出しながら見様見真似で調理したのだろう。台所に常備してあるオートミールは予め調理しやすいように加工したタイプだったが、それでも生煮えでないとは保障できなかった。 「……さんきゅ」 どんなに不味くてもちゃんと食べようと決心して、ハボックはスプーンを口に運んだ。 「…あったかい。」 薄い塩味の粥は、とろりとした優しい食感だった。味そのものより温かい食べ物を口にしたことで身体が内側から暖まる。 「大丈夫? 味見したけど、よくわかんなくて…」 「ちゃんと出来てる。美味いよ」 ぱあっと不安げだった瞳が輝いた。ハボックの役に立てた事が嬉しいのだろう、子供のような笑みだった。 「ありがとな、ジャン」 「まだいっぱいあるから! たくさん食べて、早く元気になってよ」 「いや、これで十分だって。まだそんなに食えないし…」 「遠慮しないで」 ぱたぱたとキッチンに戻ったレプリカは、大きな鍋を持ってすぐに引き返してきた。 「はい!」 「ちょ……っ。もしかして、オートミールあるだけ全部使ったのかよっ?!」 大鍋いっぱいのポリッジとにこにこ顔のジャンを呆然と見上げ、ハボックは額を押さえて呻いた。
ジャンはある意味、ハボックの願望の具現だった。彼自身が色んな制約に縛られて素直に吐露できないロイへの恋情を、ジャンはストレートに行動に移してしまう。 彼を弟のように愛しいと思う気持ちと恋敵に対する嫉妬が、限られた時間しか持たないレプリカへの憐憫とその存在の疎ましさが、胸の中で混じり合って小さな嵐を起こす。 自分に瓜二つのレプリカに対する感情を制御できずに、ハボックは悩み続けていた。 |
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